2013年6月4日火曜日

タイムマシーンベイベエ

 歩いていると、後ろから小汚い中年男性に肩を掴まれた。こちらの顔を見ると、にやりとし、口早にこうまくし立てた。
「これを読んでください。あなたの大事な人からですよ」
「なんだよおっさん、俺いま急いでるんだけど」
「私は頼まれただけですから」男はそういい、一枚の紙切れを残し去っていった。
 紙にはこう書いてあった。『三人はグル。3局目から牙を向く。対面が上がり役で脇はブラフだ。2sだ。キーは2sを振らないこと。信じろ。』

 一局十万、トップ総取り麻雀。麻雀連盟の先輩たちから誘われた。これは連盟の昔からの風習で、新入りはここで勝つとげんがいい、なんていわれたが、どうでもいい。目の前の金は拾う主義だ。だが3人が組む出来レース麻雀か、それにしてもあの親父は何者?
 悩んでいるうちに雀荘につき、先輩に囲まれた。
「金は持ってきたか?」
「百万あればいいですか?」
「少ないがまあ負けたら貸しといてやるよ」
「多分その心配はしなくていいですね」と挑発をしてみたが先輩たちはにやにやと笑うばかりだ。どうやらぐるというのもあながち間違ってはなさそうだ。

 半荘を二回終わり、2回ともトップだった。牌がいい。吸い付いてくる。負ける気がしなかった。60万の収入。勝負の途中で金の多寡を考えるのは運が逃げるというが、それは違う。いかにこれを守りきれるかが博才だ。
「半荘5回にしましょうか。だらだらやってもしようがないし。」というと先輩が色めきたった。勝ち逃げさせるわけにはいかないと。「ではレートあげましょう、いくらでも」
 三回目の半荘が始まった。親父の紙では対面が上がり役。だが関係ない。麻雀ってもんはいつもの自分をどれだけ再現できるかにある。
 三軒リーチがかかる。場流れのルールはない。
 対面をケアするなら2s。だが上家が親。親の安牌を切るのがベターではないか。いつもなら親の安牌、南を切るだろう。
 タバコを吸おうとポケットをあさると先ほどの紙が地面に落ちた。拾い、ふと見る。
『2sだ。信じろ。』
 じーっと紙を見つめ、くしゃりとつぶした。南を強打する。あの親父が相手とぐるという危険もある。それに、人に言われて何かを決めるなんてことがしたくないから、こんな商売を選んだんだ。
「ロン、ちょいと高いぜ」13種の異なる牌が目にちかちかと移りこんだ。
 それからは振込みの連続で200の借を背負うことになった。あの時あの紙を信じていれば、とは思えなかった。たらればは博徒の禁句だし、なにより麻雀は一人で打つものだ。

 5年経った。借は2000まで膨らんでいた。働けど働けど、打てど勝てど吸い尽くされる。もう終わりかもな、と思うところに、奇妙な男が表れた。昔の自分にラブレターを出すとしたらなんと書きますか?と男はいう。よく見るとあのとき手紙を渡してきた怪しい親父のようにも見える。
『三人はグル。3局目から牙を向く。対面が上がり役で脇はブラフだ。2sだ。キーは2sを振らないこと。信じろ。』と書いた。その後に、なにか一言書き足そうとしたが辞めた。これが人生って奴だ。南を打つはずだ。だが、間違っていない。落ちぶれた今、南を打てるのか。怪しい。最近は何を信じていいか分からなかった。簡単じゃないか。

「ありがとよ」と男に言うとにやりと笑った。自分を信じる。ただそれだけだ。タバコに火をつけ、卓に座った。この日は久しぶりに、牌が手に吸い付いてきた。

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