梅雨に入り雨がやまない日が続いていた。六月に入ってからの雀荘「ミナミ」の売り上げは目も当てられない。久しぶりに晴れた今日もお客さんは近所の爺さんが一人だけで、のんびりと茶をすすっていた。
メンバーが集まるまで暇なので、雨で汚れた窓でも拭こうかと思った。ふとベランダ、といっても畳み半畳程度のコンクリート、を見ると水がたまっていた。
「ああ、こりゃいかんねえ」と爺さんが後ろから覗きながらそう言った。ゴミが詰まった程度だろうと掃除をしてみても一向に水ははけなかった。「手伝おうか」と爺さんは身を乗り出し、ちょいちょいと触ると水が少しずつ減っていくようになった。
「なんか詰まっていたんですかね?」と聞いた。
「錆やなあ、取り替えた方がいいやろう」とのことだ。売り上げが少ない今月には辛い出費だ。「それと傾斜が逆やなあ」
「ビルの傾斜ですか?」
「いや、ベランダの傾斜。これじゃあ水はなかなか落ちん。そやから腐食が進んだんやろ」なんでも昔は水道屋に勤めていたというこの爺さんに格安で直してもらった。持つべきものはお客様だ。「水は高いところから低いところに落ちるからな、これでええやろ。」と簡易的な傾斜をつけてもらってからは水はけの調子が良いような気がする。
数日後、爺さんを含めた4人で麻雀を打っていた。トップ目の私は南入りしたので引き気味に打っていた。すると爺さんのダママンにあたり三着転落、次巡に運頼みリーチといったが、爺さんに追いかけられ、4着に転落した。
「水は高いところから低いところに落ちるからなあ。」と笑いながら爺さんは話す。「人もそうなんやろうなあ、体のほとんどは水や言うしなあ」
「どうやったら上から下に落とせますかね?」と社交辞令で聞いてみた。今のはただのミスで、しようがない。流れなんか考えたこともないが、こういう話を年寄りは好きだ。
「まあそれは水道屋の専売特許やいうことにしといてや」と笑った爺さんはこの日も勝ったり負けたりで一日をつぶして帰っていった。人気ブログランキングへ
0 件のコメント:
コメントを投稿