ある日、目が覚めると隣の部屋の親父が見えた。下をみるとカップルの添い寝が、後ろを見てみると女の着替えが目に飛び込んできた。頬をつねる。夢ではない。
透視能力を手に入れたのだ。
急いで雀荘に駆け込んだ。競馬でもパチンコでもだめ、この力で金を稼ぐにはもっとも麻雀が有効なはずだ。配牌を取り、対面の親父の牌を覗こうとすると、親父の全裸が見えた。違う。もっと手前。牌を見たいんだ。目の焦点を合わすことに気を取られ、兄ちゃんツモ番だよ。と何度も指摘された。すみません、と頭を下げながら何度も挑戦するうちに全員の手牌が透けるようになった。こうなったらしめたものだ。これでもう誰にも負けない。億万長者だ。
だが、気づいた。この力はコントロールすることができると。
家に帰り、ダンボール箱の中にダンボールを何層にもつめた。部屋でじっと箱を見つめる。箱の中の箱。の中の箱。またその中の箱。その次はその外の箱。またその外の箱。という風な練習を繰り返した。練習を始めて一週間後、雀荘にもう一度いき、山をちらと見た。見える。すべての牌が。もう誰にも止められなかった。
こんな力がいつまで使えるか分からない。使えるうちに稼いでおいたほうがいい。流れ流れて高レートのマンション麻雀までたどり着いた。今日勝てば3000万ほど手に入る予定だ。次はそいつを軍資金にカジノでバカラと大儲けさ。相手はしがない親父とやんちゃそうな若者、そしてその筋の方とお見かけするオールバックだ。だが、まあ関係ない。どんなレートでも、どんな相手でも負けることはない。
いつもどおりの圧勝劇が続く。だが、いつもと違うのは対局者たちの目が死なないことだ。今までの相手は圧倒的な実力差で5連勝もすれば途端に覇気がなくなったものだが、さすがにこのレートに座る猛者は違う。一体どんな修羅場を潜ってきたんだろう。
その時、対面の親父の声が聞こえた。
「これに負けたら殺される」と。驚き、目を見張るも対面の親父はこちらを見向きもせず、牌に祈っている。脇の二人も気にしてないようだ。もしかして、今のは心の声か。そうなると、この力はまた一歩強大なものとなったんじゃないのか。やんちゃな若者はこの対局に勝てば組の仲間入り。オールバックは瀬戸際の代打ちで、これに負けると食い扶持を失うことが心を読んで分かった。残念だが、こちらも負けてやるつもりはさらさらない。全員仲良く落ちていきな。
決定打を上がろうとしたとき、対面の心の声が聞こえた。「幸いここには4人しかいない。このまま負けて殺されるくらいならいっそ“こいつ”で」胸を透視すると、ナイフが隠されていた。まずいな、最悪勝ち金を減らしてでも生きて帰ろう。金ならなんとでもなる。やくざに差し込み場を収めてもらおうか。そう思い、やくざを見ると、「こうなったら“こいつ”で片付けよう」という声が聞こえた。やくざの胸ポケットに沈むピストルが見えた。若者も若者で、スタンガンを隠し持っている。
危険だ。早くここから逃げ出そう。とっととやくざに振り込んで収めてもらおう。そう思いやくざの当たり牌を抜き打ちしようとした瞬間、親父にナイフで胸を刺された。血が凍った。我に返ると、刺されてはいない。それどころかまだ牌も切っていない。
未来まで見えるのか。
自分で自分が怖くなった。なら親父に差し込もうと当たり牌に手をかけるとスタンガンで電撃を浴びる衝撃が全身に走った。若者に差し込むとまた親父のナイフが胸に。この決定打をツモ上がりすればピストルで打ち抜かれる。関連牌以外を切れば下家のやくざがツモ上がりをする。これが生還の道か。
やくざがツモ上がりをし、差し込んでやくざの一人勝ちを演出する。命からがら逃げ出した後は、カジノで大富豪になった。人の心も未来も見通せるこの力を止められるものはいなかった。だが、金を手に入れても虚しいだけだった。金目当てによってくる下種どもの心はお見通しだし、たまに信頼を寄せた人間も金を手にすると人が変わった。人間に嫌気が差し、書斎に引き篭もるようになった。本を読み、寝る。ただその繰り返し。こんなことなら、こんな力は授からないほうがよかった。
我に返ると雀卓を囲んでいた。親父と若者、やくざが怪訝な顔をしている。どうやら、遠い先の未来まで見えたらしい。軽く笑い、ツモ上がりを選んだ。パン、という銃声が脳天に響いた。
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