雀荘の常連の親父が「また島田の優勝か」とぼやく。島田圭翁。プロ麻雀界の創世記から君臨する帝王。ミスターと呼ばれ、麻雀を打つもので知らないものはいない有名人だ。
「もう年なのに凄いですね、衰えを感じないっていうか」と世間話らしい返答をしてみる。
「でもそろそろ世代交代がみたいんだよなあ」と親父は想像通りの世間話らしい返事をしてくれた。
「世代交代の前に一度くらい囲んでみたいですね」
「島田とな、確かに。麻雀打ちの夢だよなあ。それこそ最近は毎回決勝で島田とあたるあいつがうらやましいよ。あいつだよあいつ、ほらへんてこなピエロのお面被った、なんていったかな、ああ、そうそう…」
最近プロ麻雀界に奇妙な男が現れた。麻雀雑誌は、彗星のように現れた新人類!だとか、ネットが生んだモンスター!などと煽っているが、実際はただの根性無しの若者なのだと思う。
お面雀士“ウィンダム”ネット出身らしい彼は顔を見せることを嫌いピエロのお面を被り卓につく。実力は折り紙つきで、毎回必ず決勝まで残る。だが、決勝ではなぜか打ち筋が甘く、毎回顔に、いや面に、泥をぬる結果となっている。麻雀屋の店長の私は本当は興味などないのだが、麻雀好きの最近の話題はウィンダムで持ちきりだ。
夜。小遣い稼ぎのバイトに行く。
やくざの代打ち。雀荘のけちな売り上げではクビが回らない、と自分に言い聞かせているが、たんに痺れるような麻雀が打ちたいだけだった。この商売を生業にした瞬間から、長生きする気などない。感性を磨くだけ磨いて潰れてしまいたい、とどこかで思う自分がいた。
媚びうる組長の車に乗り、卓に案内された。毎回、やくざな人間ばかりが卓を囲んでいるが、今日は珍しく堅気風な若者がいた。話を聞くと、麻雀で稼ぎ、ここまでたどり着いたチンピラらしい。後ろ盾もないままこのレートに座れるのだから、本物なのだろう。
勝負は五分五分だった。毎回接戦なのだが、それでも少しの隙で相手が落ち、なんとか生き残れていた。だが今回は朝まで五分で、勝負は持ち越しとなった。
「かーっ、この俺が場代負け?ありえないありえない」堅気の若者はそういいながら立ち上がる。「まあいいんだけどね、今日はこのくらいにしといてやるってことで」ふざけた口調だが実力は本物だった。きちんと生きていればまたいつか囲む日がくるだろう。「そうそう、組長さんこれ買わない?今度の決勝でおれの代わりに打つ権利とお面を。五百でどう?たぶんまた島田さんも残るんじゃないかな?」若者は、組長にピエロのお面をはした金で売っていた。
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