2013年7月3日水曜日

赤い稲妻

 サングラスの奥に赤い稲妻を見た。
ゴミ捨て場に転がった男は震えながら、そう言った。警察は怪訝な顔をしながらも男を連れてパトカーに乗る。こんな事件がこれで何件目だろう。ただ、警察が大きく動く気にならないのは、被害者が幼児でも女でも老人でもない中年のおっさんばかりだからだ。弱者を放っておくと世論が襲い掛かってくるが、この事件がそうでないことを、警察は勘で知っている。

 近くの雀荘に昨夜、夜なのにサングラスをかけ、夏なのに皮ジャンを羽織った男が来た。身内で小遣いをやり取りしている雀荘は、新規に厳しい。男はどかっと座り、空いたら呼んでくれ、と言ったきり眠りだした。サングラスをかけているので本当に眠っていたかは分からないが、ぴたりと動かなくなった。
 サングラスが卓に入ると常連の一人が後ろに座った。
 サングラスはどんなノミ手もテンパイまで育て、リーチと大きな声で曲げた。
 
ズブシロさ。常連は目で身内に合図をした。同卓者たちも軽く目でうなずく。
サングラスはリーチで浮いたり、振り込んで落ちたりを繰り返す。だが、4回やって常にトップだった。

運だけ麻雀か

後ろに座った常連がそう言った。サングラスはにやりと笑った。その日、常連は人生で初めて10連続のトップ劇を目撃した。

降りない。振ってよし。だが、負けは良しとしない。男にオトコを感じたのか、自然と皆がサングラスを称えた。
それが面白くなかった。
常連はサシウマを握り、卓に座った。これ以上の快進撃が続くわけがない。確率的にも、もう止め時さ。

気づくとゴミ箱に捨てられていた。払えない額を乗せ、必死に謝ったが、男は何度も何度も、顔を殴られた。脳裏にはサングラスの奥に見た赤い稲妻だけが残っていた。
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