2013年7月28日日曜日

ブラフマン

 じっとりとした汗を握りこんでいた。対面の男。裏賭博では見たことのない顔の方が多い。町で自慢の腕自慢がやってきてはすぐに自惚れに潰され、いなくなるからだ。新顔はカモだというのが俺たちの相場だ。だが、この男は。
「消える露」
 対面はぽつりぽつりと言葉を落とす。
「儚い命」
 死神がいつか迎えに来るのは分かっていた。こんな世界にどっぷりと漬かりこんだのは生を実感するためだった。死を隣に置くことで生きながらえてきた。
 どこかでいつ死んでもいいと思っていた。
 だが、死神を目の前にすると、悔しいなあ。まだ生きたい。やり残したことなんかないはずだが、まだ、打ちたい。
 中盤。3色含みの可能性もあるメンタンピンがシャンテンになった。ぶくぶくに構えず、安牌を抱えるようになったのはいつからだろう。麻雀は不条理な事故の連続だ。自分の身を守るのは自分しかいない。この一枚で何度もしのいできたという自負がある。
 対面が生牌の白を手出しした。テンパイ?手代わり?
 次巡、またも生牌の西。
 捨て牌を確認する。強烈。よもやのメンチンまで。
 汗を握りこんだ手を見る。
ああ、まだ生きている。一枚残した安牌を抱きかかえるように胸に寄せた。
安牌を生命線に局を消費する。そう決断した。
その局は全員ノーテンだった。対面がノーテンなどということがあるのか。手を見せないためか。ブラフか。ただ、対面の尋常でない気配が俺の手を止めたのだから、格上と認めざるを得ない。
次局、ドラ2枚を抱えのタンヤオが本線の手が入る。あがれないともう後がない。イーシャンテンでぐずぐずしていると、対面がまたも生牌を手出し。先と同じく染め気配。
だがおれもテンパイ。二択。安牌を抱えるか否か。この手は押し。安牌などいらない。だが、対面の死神が手首を掴んで離さない。結局いつものように安牌を抱え、手をまとめる。
死神は山に手を伸ばし、手のうちから染め色であるはずのピンズを川に並べた。
手を掴んでいた死神が離れた。

確信した。

山に手を伸ばし、テンパイをいれた。安牌に手を伸ばし、川に並べる。死神の手はもはや大鎌を握りこんでいた。俺の捨て牌を一瞥した死神は、鎌を振り落と


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